【行政/公共施設管理】工程表をタスク管理として活用。テンプレートを使って誰でも業務を引き継げる仕組みを確立
茨城県 つくば市
建築工事雄大な筑波山を筆頭に豊かな自然が広がる一方、学術・研究都市の顔を持ち、国際会議観光都市やスーパーシティ型国家戦略特区にも指定されている、つくば市。先進的な市の特性も背景にDXを進めるつくば市役所では業務効率化に向けた実証実験として、プロジェクト管理のDXツールである「KANNA」の実証実験を開始しています。
自治体職員の残業も問題視される昨今、業務の効率化が求められるのは民間企業だけではありません。つくば市では、何を課題に「KANNA」の活用を進め、どのような効果を期待されるのか。建設部 公共施設整備課 建築第二係の吉原寛様、津波古翔太様のお二人にお話を伺いしました。
KANNAを導入した目的
「課」として情報を一元化し、属人化を解消し、定期的に行われる部署異動に対応するべく業務フローを確立したい
KANNAを導入する前の課題
(1)明文化されていない細かな業務フローが職員各自の裁量に委ねられ、属人化が生じていた
(2)部署異動が定期的にある一方、業務の属人化によって引き継ぎが十分にできずにいた
(3)情報漏洩防止の観点からメール添付できる資料に制限があり、図面更の合意を得るために関係者を集める必要があるほか、メール連絡においても最新情報の認識にずれが生じることがあった
KANNAを導入した効果
(1)案件カレンダーによって工事の進捗状況を可視化し、案件ボードによって工事ごとの関係者や留意事項を整理。関係者全員がそれらの情報を確認できることから、属人化の解消に寄与
(2)工事の流れやタスクを可視化できる工程表の活用により、業務フローが明確化。業務のマニュアルが出来上がり、引き継ぎの際にスムーズに業務フローが共有できる
(3)災害発生時に、スマホでの一時対応が可能となり、現場状況の共有と把握にも期待
お話を伺った方
建設部 公共施設整備課 建築第二係
(左)係長 吉原 寛様
(右)主任技師 津波古 翔太様
人口増加率全国1位。一方、急激に増加する住民に対応できるだけの十分な職員の数が足りない
—— はじめに、つくば市についてお聞かせください。茨城県の南西部に位置し、学術研究都市としても知られていますが、どのような地域なのでしょう?
吉原様:つくば市は、総務省が発表した令和5年1月1日現在の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」において、人口増加率が2.3%と全国1位となる街です。子どもたちも増え続け、今年4月には、新たに小学校と中学校を開校しました。
つくば市が人口増加傾向となった大きなきっかけは、平成17年のつくばエクスプレス開業にあったと考えます。つくば駅から秋葉原駅までは最短45分。この利便性に加え、コロナ禍以降は働き方も多様化していますよね。
「つくば駅」からの市内風景
ふだんはつくば市の自宅でリモートワークをし、必要に応じ、都心の会社に出社する。こうした新しい働き方に、つくば市の環境がマッチしたのではないでしょうか。交通の利便性の一方、つくば市は自然豊かです。子育ての環境や支援も充実しています。これは、つくば市が推進する都会的な便利さと田舎ののびやかさを兼ね備えた“トカイナカ”です。
人口増加が著しい反面、急激に増加する住民に対する十分な職員の数が足りない、という状況に直面しています。この問題を解決するため、市役所内ではさまざまなDXツールを取り入れ、職員の業務効率化を図る取り組みを行っています。
つくば市は業務のDX化に非常に前向きで、以前から業務効率化を目的にRPAやAI議事録を導入するなどの取り組みを行っています。「KANNA」に関しても、業務効率化を目的に、実証実験を開始。まずは私たちが在籍する公共施設整備課で実証実験を開始します。
定期的な部署異動への対応のため、業務フローをマニュアル化。スムーズな引継ぎを実現したい
—— では、具体的にどのような課題が挙げられるのでしょうか?
吉原様:本実証実験を行う「公共施設整備課」は、市内の学校や交流センターをはじめとした公共施設の修繕や建設の発注、工事のスケジュール管理や監督の補助、完了検査などを行っています。
つくば市に限らず、私たち自治体職員は、何事も法律に基づいて業務を遂行します。しかし、細かな業務フローまでは明文化されておらず、そうした部分は個人の裁量に委ねられます。正確かつ効率的に業務が進められるよう、職員一人ひとりが努めるわけですが、結果的に属人化を招いてしまうのです。
業務が属人化してしまう背景には、行政機関ゆえの特性も関係しています。私たちの業務において、情報漏洩はあってはならないこと。各職員に割り当てられたパソコンには、高レベルのセキュリティがかけられています。パソコンの持ち出しも制限されており、メールに添付できるファイルの容量も制限され、つくば市指定のオンラインストレージしか利用ができません。
津波古様:住民の皆さまや行政に関わる大切な情報を守るためには、高度なセキュリティが必要です。ただ、公共施設整備課は他部署や他課にとどまらず、外部の民間業者とも連携が求められます。学校などの公共施設の新設や修繕が生じた際に、建築の専門知識を持ち、工事の検討から調整、発注、工事監督から検査に至るまでを差配し、補助するのが我われ公共施設整備課の役割です。
施設の工事を進めるには図面が必要になり、その図面を関係者と共有する必要があります。しかし、図面は細かく、サイズも大きい。PDF化しても容量が大きいため、メールへの添付送信はできません。結果、図面の原本、つまりは紙に出力してのやり取りになるわけですが、同じ市役所内ならまだしも、図面に変更が生じるたびに関係者を集めて合意を取る必要があります。
吉原様:紙図面を持参して、関係者が集まり打合せを行わないといけないということは、たびたび業者さんのもとを訪れる。とても非効率ですよね。容量の大きな資料の添付を伴わない連絡や変更の周知はメールでも可能ですが、工事対象となる施設を管理する部署や課の担当者だったり、施設の設計者だったり、さらには施工業者だったり、一つの工事に多くの人が関わり、関係者全員に漏れなく情報を伝えることは容易ではありません。
これまで関係者全員に情報を伝える際にはCC:を付けてメールを送っていたわけですが、受信側の見落としも生じ、どの関係者がどの情報を見落としているのか、こちらが把握することは困難です。そうなれば、それぞれが把握している最新情報にずれが生じ、そのずれが工期の遅れにつながりかねません。
特につくば市役所の場合、メールアドレスは職員一人に対し各自付与ではなく、各課に1つ共用のメールアドレスが付与されるため、私と津波古は同じメールアドレスで、個人のメールアドレスを保持していません。情報共有の面ではメリットなのかもしれませんが、自分に必要な情報が書かれているのかいないのか、メールを開くまでわからず、結果、不要な時間を取られてしまいます。
また、約4年ごとに部署異動があり、引き継ぎの機会も多いのが行政の特徴です。しかし、ここでも業務の属人化がネックになります。
先ほどもお話ししたように、明文化されていない業務フローに関しては職員の裁量に委ねられているため、「これを見れば、誰でも業務の流れやこれまでの情報を把握できる」といった体制が構築されきっておらず、業務を引き継ぐ職員も、引き継がれる職員も、なかなかの苦労をしています。
しかも、どの課も引継ぎ期間はわずかしかなく、バタバタと次の部署へ移ることになります。こうした状況を改善し、効率的かつ正確な引き継ぎ体制を整えることも喫緊の課題です。
工程表をタスク管理として活用。テンプレートを使って誰でも業務を引き継げる仕組みを確立
—— 業務の属人化や、引き継ぎでの苦労、また、広範囲にわたる関係者との情報共有といった課題を背景に、「KANNA」にどのような効果を期待されていますか?
吉原様:まずは、私たちの大きな課題である属人化の解消です。それを「KANNA」の工程表を使って解決したいと思っています。ひと口に工事と言っても、そこには多くの工程が発生します。「KANNA」は工程の項目一つひとつを任意の名称にカスタマイズでき、全体の工期のうち、どの工程がいつ始まり、いつ終わる予定なのか、各工程の依存関係も合わせて可視化されます。工事にまつわる全タスクを「KANNA」の工程表に入れ込むといった使い方です。
さらに、工程表に入れ込んだ工事のタスクをテンプレート化しておけば、新たに現場案件が発生したい際、あらかじめ作成しておいたテンプレートを活用し新たな現場名や工事日程を書き込むだけ。私たちの業務も非常に短縮されますし、工事の順番や何をすべきかがすべてマニュアル化され、情報として残していける。このテンプレートを使っていけば、職員の入れ替わりがあった手も、誰でもこれまでと同じような運用を再現することができます。
つくば市様が実際に活用している「工程表」。これをテンプレート化し、汎用性を高めている
また、案件ボードも便利です。学校なら教育施設課、交流センターなら市民部といったように、工事対象となる施設ごとに主管部署や課が変わり、留意事項もさまざま。「KANNA」なら細かな情報や注意点も案件ごとに整理でき、なおかつ、案件ボードを見れば、タスクごとの「作業前」「作業中」「完了」といった、それぞれの進捗状況を関係者も把握できます。これは複数の工事を監理監督する私たちが求めていた機能です。
つくば市様が実際に活用している「案件ボード」画面
こうした「KANNA」の機能は、資材や設備のスムーズな発注にもつながると考えています。つくば市では人口増加に伴い、学校施設の増設も急務。実際に今年の4月には新たに小学校と中学校が開校しました。冷房の設置は必須で、冷房にはキュービクルという変圧器が必要になりますが、キュービクルの製造工場の人手不足もあり、納品までに約3~4か月近くかかります。
この情報が工程表のテンプレートに反映されていれば、キュービクルの発注時期が明確になり、適切な工程で工事を行うことができます。更に、昨今の社会情勢が変化する時代に、納期が急に変更する場合もあり、それらの情報も「KANNA」であれば迅速に共有し、対応することができます。
先ほども少し触れたように、「KANNA」の工程表は、引き継ぎの際にも役立ちます。津波古や私は建築職ですが、建築における専門知識を持たない一般職の場合、業務を引き継ぐのはより大変です。それが「KANNA」の工程表を見れば、工事がどのように進んでいくのか、視覚的に把握できますし、テンプレート化することによって業務が仕組化できます。
そして、関係者との連絡も図面をはじめとする資料の共有方法も、すべて「KANNA」に移行すれば、業者さんとのやり取りの履歴が会社名や部署名ではなく個別の氏名でチャットに残り、工事に必要な資料は各案件のフォルダから簡単に確認できる。工期の途中に異動が生じても、スムーズに監理監督業務を引き継げるはずです。
ほかにもチャットで、誰が既読になったのか確認できるのも安心です。投稿されたコメントに対する既読メンバーが表示できるため、誰が読み、誰が読んでいないのか、そこまで明確に把握できます。返事がなくとも、この確認だけで状況把握ができるため、非常に便利な機能です。
「KANNA」のチャット機能は、既読メンバーの一覧が分かる
連絡のやり取りは民間業者の責任者の一報、現場にまで情報が届いておらず、職人さんの負担に
津波古様:連絡手段や資料の共有を「KANNA」に移行するため、他部署や他課の関係者だけでなく、民間業者の方にもアカウントの付与を進めていますが、すでに好評のお声をいただいています。メールにしても電話にしても、私たちとやり取りをするのは民間業者の責任者であることがほとんど。ですが、実際に施工をされるのは、その下で働かれている職人さんです。
そのため、私たちが責任者の方に伝えたことが、実際に現場に来る職人さんにまで伝わっていないことが多々あり、これには現場の皆さんも困っていたようです。しかし、連絡手段を「KANNA」のチャットに移行すれば、責任者の方も当日現場にいらっしゃる職人さんも、私たちからの連絡を関係者全員が見られるようになります。
必要な情報を、事前にしっかりと把握いただく。これは工事のミス防止にもつながるため、管理者である私たちとしてもメリットです。また、現場の職人さんにもアカウントの付与ができるのは、「KANNA」が高セキュリティなアプリです。セキュリティへの信頼性あってこそ、関係者全員にアカウントが付与できます。
吉原様:それに連絡手段を「KANNA」のチャットに移行すれば、職人さんも日常で使用している緑の無料チャットアプリのように、社交辞令の文章を書く時間が削減できます。メールを書くとなると「お世話になっております」から始まり、不要な時間がかかりますよね。それがチャットとなると不思議なことに、本題に入る前のあいさつ文を省いても失礼な感じがしません。むしろちょっと距離か縮まる。必要なことを端的に伝えられ、これもまた、施工業者と管理者双方のメリットになると考えています。何より、パソコン向けのツールではなく、スマートフォンで使いやすいアプリという点も、職人さんに活用いただくためには非常に重要なポイントです。
そして、図面の共有に「KANNA」のフォルダ機能を活用すれば、情報の錯誤も防止できます。先ほども申し上げたとおり、私たち職員に割り当てられたパソコンでは容量の大きな資料はメール送信できず、図面のように情報量の多い資料に関しては、紙でのやり取りをしていました。
それが「KANNA」なら、工事に関わる図面も画像資料も、案件ごとに作成したフォルダに格納するだけ。新たなファイルをアップロードするごとにプッシュ通知がされるため、更新情報が見落とされる心配もありません。
プッシュ通知機能
また、「KANNA」のフォルダ機能に関しては、定例会の時間を短縮し、同時に精度を上げることにもつながるのではないか、と期待しています。定例会は実際の現場で行い、なおかつ施工業者の方全員に参加いただき、私たちは図面や建築基準法に基づいた法令集などの大量の紙資料を持ち込まなければいけません。
現場に大量の資料を持ち込み、提示しながら工事の進め方を検討するわけですが、業者の方からすれば、法律に関わる資料をいきなり見せられたところで、すぐに理解できるとも限りません。そこで、今後は議題に応じた資料を抜粋し、事前に「KANNA」のフォルダにアップロードすることを考えています。そうすれば、施工業者の方も事前に目を通すことができ、理解が深まり、不明点は定例会で質問することで解消される。定例会の精度を高めながら、「KANNA」での共有で十分な場合は定例会の会議頻度を減らす。会議の拘束時間だけでなく、移動時間の削減にも期待しているところです。
業務の効率化を図りながら、緊急災害対応の「KANNA」活用も視野に
—— そうした課題解決に加え、市民の生活を支える自治体職員の方々にとっては、災害対応も業務の一つです。緊急の災害時に「KANNA」に期待されることがあれば、お聞かせください。
吉原様:大地震や豪雨をはじめとする大災害が起きると、交通網が麻痺しかねません。そのため、つくば市では市役所に集まらずとも職員同士が連絡を取り合える自治体専用アプリを導入していますが、そこでネックなのが、あくまでチャットに特化したアプリであり、「KANNA」のようなフォルダ機能がないことです。そのため、職員や消防関係者が次々に投稿すると、必要な情報や写真が流れてしまいます。
災害時にまず重要なのが、現場状況を正確に把握すること。そして、状況把握のためには現場の写真が必須です。現在、使用している自治体専用アプリも画像のやり取りは可能なため、情報を時系列で追っていくことには役立ちますが、情報や被害状況写真の整理整頓ができない。
そこで「KANNA」のフォルダ機能を活用したなら、場所や日付ごとにフォルダを作成し、そこに現場の写真をアップロードしていけばいい。作成したフォルダには具体的にどの場所の画像が格納されているのか、単に地名だけでなく、地図と連動させた番号を振れば、視認性もより高まります。
写真のフォルダ分けイメージ
そして、災害復旧には他の自治体との連携が必要です。令和6年元旦に発生した能登半島地震では、つくば市の危機管理課からも応援職員を派遣しましたが、派遣された職員にとって、災害地は不慣れな土地。被災地の情報を「KANNA」で整理し、土地勘がない場所でも地図と連動した形で現場の写真を確認できれば、大きな助けになるのではと考えています。これが実現できたなら、土地勘のない場所でも、これまでに以上に迅速な対応が可能になるだろうと考えています。
—— ありがとうございます。それでは最後に、「KANNA」活用の実証実験を経た先に、つくば市はどのような業務体制を目指されるのか、今後の展望をお聞かせください。
吉原様:「KANNA」に限らず、業務効率化のためにはDXツールの活用が欠かせません。昨今、自治体職員の残業が問題になっていますが、残業が生じる理由の大半が突発的なトラブルです。その解決策の一つが情報の標準化だと考えます。
メールや電話、個々のメモなど、情報共有や情報蓄積の手段がばらけていると、当然、統一した情報把握は難しくなりますし、データとして蓄積されていきません。しかし、「KANNA」に期待することとしてお話ししたように、業務に関わる情報をすべて「KANNA」に集約できれば、関係者の誰もがタイムリーに見逃すことなく同じ情報を確認でき、かつ情報が残っていくため、過去を見返すこともでき証拠も残せる。突発的なトラブルの対応も迅速に行えますし、防止につながるはずです。
今回の実証実験では、私たちが在籍する公共施設整備課で実施していきますが、「KANNA」の導入活用によって業務効率化に成功できれば、他部署や他課への導入も検討されると考えています。自治体の業務は部署や課を超えた連携が必要なため、「KANNA」の実証実験はその試金石とも言えます。
また、自治体業務の原資は市民の皆様の税金です。経費削減のためにも環境配慮のためにも、今後はよりペーパーレスを本格化させる必要があります。ペーパーレスを進めるにはタブレットをはじめとするハードの拡充も必要になるため、簡単な話ではありませんが、「KANNA」とタブレットを活用すれば、いつでもどこでも、紙への刷り出しをせずに資料の確認が可能になります。
自治体業務のDXが進めば、職員ではなくAIが処理できる業務も増えてくるでしょう。しかし、公共施設の整備や増設は人ありき。職員が直接対応すべき業務に十分な時間を割けるよう上手にデジタルを活用しながら、つくば市が今後も変わらず「住みたい、住み続けたい」と感じられるまちであれるよう、努めていきます。
- 会社名
- 茨城県 つくば市
- 事業内容
- 行政機関
- 設立年月日
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- 従業員数
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- ホームページ
- https://www.city.tsukuba.lg.jp/index.html
記事掲載日:2024年08月26日
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